都心の賃貸オフィスは今は空きだらけなのでは
私が今まで働いていた会社はすべて賃貸オフィスでした。賃貸料というのはやはり都心に近付けば近付くほど高くなります。新宿の一等地に私が働いているオフィスがあって、その同じビルの中で、ここ1年の間に引越しをしてしまった会社は5社ほど。すべて空スペースになってしまいました。このビルのオーナーにとってかなりの大打撃でしょう。賃貸オフィスのオーナーがんばれ。
我が社は、貸事務所によって仕事をしておりますので、賃貸料を毎月支払っているような感じです。場所柄、職場は銀座なので、とても賃貸料が高いのです。銀座という場所なので、家賃が高いのは当たり前の話なのですが、それにしても高いです。逆に、銀座は賃貸料が高いので、我が社が入っているビルから、撤退していく企業もあります。貸事務所は場所により家賃が大きく異なります。
「沖縄の本は県民の財産。誰も電子書籍化してくれないのなら、うちがやろう」――沖縄発の書籍のみに特化したユニークなラインアップで、プレオープンから注目を集めていた電子書籍販売サイトが「沖縄eBooks」だ。
沖縄eBooksには、ウチナーンチュ(沖縄人)しか知らない地元の観光情報はもちろん、沖縄そばに限定したグルメガイド、SPAMやゴーヤーだけの料理本といった、県外では手に入れることが難しい特徴的なタイトルが並ぶ。中でも、沖縄唯一の月刊写真ニュース誌「オキナワグラフ」は、1958(昭和33)年の創刊号からのバックナンバーが順次電子書籍化されつつあり、歴史的にも貴重なコンテンツといえる。
こうした沖縄eBooksのコンセプトは、どのようないきさつを経て生まれたのか。また、そこには電子書籍ビジネスを考える上で重要な何かが隠れているのだろうか。数カ月の試験運用を経て5月23日に正式オープンした沖縄eBooksについて、運営元である近代美術に聞いた。
●沖縄県にある書籍を電子化できれば、それは沖縄県民の財産になり得る
── まずは「沖縄eBooks」の立ち上げに至ったいきさつから教えてください。
小井土 沖縄eBooksは電子書籍の販売サイトですが、弊社としては必ずしも電子出版に重きを置いているわけではありません。ただ、メンバーと方向性を詰めていく中で、沖縄に特化したものにしようという方向性は早い段階で固まっていました。
沖縄には全国では流通していない本が数多く存在します。これらを電子化できれば、沖縄県民の財産になり得るのではないか、誰もそれをしないのであれば、うちがやろうじゃないかと考えたのです。電子書籍を“売りたい”という考えが先にあったのではなく、手段の1つとして電子書籍になったという感じですね。
全国では流通していない本の中でも「オキナワグラフ」は創刊が1958年という歴史ある本なのですが、今回ご縁があって、その創刊号から電子書籍化して提供することができました。現在はもう在庫がほとんどないこともあり、たいへん貴重なモノです。
榎本 今年の10月に「世界のウチナーンチュ(※)大会」というイベントが行われるのですが、それに合わせて自分が生まれた当時のオキナワグラフのバックナンバーを欲しいという要望が版元に寄せられているそうです。しかし版元にも在庫はほとんどなく、流通しているものも数千円のプレミアがついています。これらを電子化して提供できれば、世界中から寄せられるそうした要望に応えることができるというわけです。
※ウチナーンチュ=広義での沖縄人を指す言葉。世界のウチナーンチュ大会は、ハワイやブラジル、ペルーなど、沖縄からの移民が多いエリアから多数のウチナーンチュの参加が見込まれている。前回(2006年10月)は世界21カ国・3地域から4900人が参加した
── 電子版「オキナワグラフ」は当時の広告もそのままなんですね。
榎本 現在、新星出版という会社がオキナワグラフの出版を引き継いでいるのですが、そちらにお伺いを立てた上でそのまま掲載しています。読者の方に当時の雰囲気を感じてもらいたいというのもありますし、当時出稿していた企業に現在勤めている方にも興味深く見ていただけるだろうと考えたんです。誌面の4分の1以上のサイズで広告が入っていれば、社名を全部拾って目次に載せています。
── 観光ガイドブックなどのタイトルについても、本土で手に入る観光ガイドとは違う、マニアックな内容のものが多いですね。
榎本 沖縄への観光客は昨年550万人を突破したのですが、その7割以上はリピーターといわれています。リピーターになればばるほど、本土で売られているガイドブックでは飽き足らないんですね。だから、普通の観光ガイドに載っていないようなビーチや、地元の若い方にはよく知られたカフェ、あるいは村の外れに突然現れるきれいなブティックといった独自の情報を出していきたいと考えました。
単に観光という表面的な部分ではなく、もっと深みのある沖縄を本土の人に知ってもらいたいと考えています。文化にしても、例えばエイサーは太鼓をドンドン鳴らすようなものではなく、もともとは盆に家々を回ったり、庭先で踊ったりしていた、手踊り中心の念仏踊りだったのが、1950年代から始まったさまざまなエイサー大会がきっかけで、大太鼓を打ち鳴らす勇壮なスタイルに変化していったという歴史があります。一方で「日本の音風景百選」に選ばれた平敷屋エイサーのように伝統的な踊りを継承しているエイサーもあります。
私自身、沖縄戦などいろいろな話を知る中で、1つは琉球文化、もう1つは戦争、この光と陰の両方を知っていただいてこそ沖縄なんだと考えています。「本当の沖縄文化」を知れば知るほど、沖縄に興味を持っていただけると思います。そこでまずは新しい本よりもオキナワグラフのような古い本を中心にピックアップしたのです。
●印刷データさえもらえば、あとは弊社がやるというスタンス
── まず沖縄の本を県民の財産として残したいという文化事業的な構想があり、そこから物流コストの問題などを1つずつ検討した結果、残った選択肢が電子書籍だったということですね。
小井土 はい。少し補足すると、弊社で発刊している「OKINAWA100シリーズ」を電子書籍にしたいという声がスタッフから上がってきていました。県外へはほとんど流通していないこのシリーズ本を県外の方に見ていただくにはどうすればよいかというアイデアの先にあった電子書籍での配信に、私は私で(文化事業としての)思いをぶつけ、結果的に今の形ができあがったというわけです。
榎本 沖縄は周囲が海に囲まれているので、本土、つまり沖縄県外へ流通させるのが結構大変なんです。物流コストも掛かりますし、ある程度売れないと返品になってしまう。(OKINAWA100シリーズは)観光計画を立てるのにうってつけの本なので、ぜひ県外の人が観光に来る前に手に取っていただきたい。しかし、ネットショップでの販売だけでは、どうしてもリピーターの方にしか買っていただけない。ガイドブックの判型はiPhoneに近いものだったこともあり、これ(ガイドブック)をiPhoneに入れて沖縄を旅してもらうのはぴったりではないかと思っていました。
── そうしてできあがった沖縄eBooksのプラットフォームを、県内の他社にも提供しているというわけですね。
榎本 今日の印刷は全部デジタルですから、電子書籍販売のプラットフォームさえあれば、そこにデータを展開するのはそう難しいことではありません。ですから、弊社と取引があるかどうかといったことはさておき、同じ志を持つ県内の出版社には参加していただだきたいと声を掛けていったのです。うちもまだ無名な存在ですから、リスクは近代美術が負いますからということで。
── 印刷会社である近代美術が、沖縄県内の各出版社の製版データを有しており、それを有効活用しようといった流れではないということですね。
榎本 違いますね。弊社と取引がなくても声は掛けられるので、ほかの印刷会社さんに出されていても構いません、データさえもらっていただければあとはうちがやりますというスタンスです。版権の問題までは各版元にお願いし、その先はやりますという感じですね。
── 5月の時点で、沖縄eBooksのプロジェクトに賛同されているのは16社とありましたが、沖縄の出版社や印刷会社はどのくらい存在しているのですか?
榎本 出版社だけでも沖縄県内には数十社あります。印刷会社が独自に出版しているケースもありますが、2、3人でやっているところが多く、5〜6人だと大きい方です。印刷会社についても、組合に加盟している印刷会社だけで150社くらいありますね。母数からみればまだまだ参加いただいているところは少ないですが、沖縄を元気にしたいという部分に共感していただけるなら、どなたにでもお越しいただきたいと思っています。
●注力すべきはシステムではなく、ストアとしての特徴を出すこと
── 電子書籍販売サイトのプラットフォームとして「wook」を採用していますが、wook選択の理由はどの辺りでしょうか。
榎本 最初はシステムの自社開発も考えたのですが、スピードとリスクを勘案した結果、システムはwookを用いつつ、ストアの特徴を出すことに注力する戦略に切り替え、1月25日のプレオープンにこぎつけました。アプリレベルの話、いわゆるアプリ戦争のところで戦ってもしょうがないと思いましたし、小井土がとにかく早く始めろと(笑)。
wookを選択した最大の理由は、いわゆる電子商店として、沖縄のものだけをアップできるためです。沖縄を活性化するためにやっていることを明確にする意味からも、沖縄に特化している部分は外せなかったんですね。ほかのプラットフォームだと全国の本が並ぶなかの1つの本という形になってしまい、埋没してしまいかねないですから。App Storeで売れているアプリは結局ベストテンなど上位にあるものだけで、それ以外はロングテールとはいえなかなか売れない。それは避けたかったんです。
ただ、wookだけでは沖縄の本をさらに「英字新聞」「平和学習」のように、独自にカテゴリ分けしたり、新着本/オススメ本を告知することができなかったので、wookとは別に「www.okinawa-ebook.com」のサイトを設けて、「沖縄本専門サイトの入り口」らしさを出しました。
── 収益の配分などはどのようになっているのでしょうか。
榎本 電子書籍が売れたら版元に代金の50%をお渡しするという形にしています。残り50%はwookさんが25%、わたしどもが25%という内訳です。現状はコンテンツの約半分がフリーペーパーで、利益が出ているわけではありませんが、少なくとも2012年の3月までは、電子書籍化して沖縄eBooksに並べるところまではお金をいただかないつもりです。
小井土 弊社としては、事業化の前段階のプロジェクト、という位置づけで考えていて、沖縄eBooksが今後どのように発展していくかを見守っている状態です。
── なるほど。ところで、オキナワグラフは誌面をそのままスキャン、よく言われるところの「自炊」に近い形ですよね。スキャンしたものをPDFに変換して、それをwookで読み込むという形なんですか?
榎本 そうです。wookはもともとPDFでのワークフローを想定したサービスなので、版元からのデータはPDFフォーマットしか受け付けていません。wookはEPUB出力もサポートしていますが、沖縄eBooksでは既刊本を対象に考えているので、EPUBは使っていません。
── 現在はPDFベースということですが、例えばEPUBなどのリフローが可能なファイルフォーマットも登場しつつあります。こうした部分にはどういう見通しを持っていますか?
榎本 沖縄の印刷会社は写真をふんだんに使ったビジュアル重視のものを得意としているので、1ページはここまでという固定された体裁で、その中で写真が動くとか、レシピの動画が見られるとか、わたしどもが得意としている印刷と電子書籍でデータを相互利用する方向に進むと考えています。ですので、今のEPUBでできることのレベルで満足する出版社は多くない気がします。
●埋没している沖縄の魅力を県外に発信することで、沖縄を元気に
── 正式公開からまだ日も浅いですが、当面の予定をどのように考えていますか。オキナワグラフも、現時点ではすべてのバックナンバーが公開されているわけではないですよね。
榎本 沖縄では、沖縄戦が事実上終了した6月23日が慰霊の日となっているのですが、それまでにはいま用意している60冊のバックナンバーを閲覧可能にしたいと考えています。
途中抜けているバックナンバーについても新星出版の同意を得られたので、特別保存版をお借りし、ほぼ全バックナンバーに近い状態で提供できそうです。ただ、あまり新しいものは読者の興味も薄いでしょうから、海洋博のあった1975年ごろまでのバックナンバーを公開します。
オキナワグラフという戦後の沖縄を代表するコンテンツを公開できたことは喜ばしいことですが、すでに別の歴史あるコンテンツ――これは25年の歴史を持つものなのですが――についても折衝を始めたところです。また、市町村、博物館、文化施設などにも提案するつもりでいます。今は売上を追いかけるよりも、コンテンツの種類を増やしていくのが重要な時期だと考えています。
── 市町村、博物館、文化施設などからはどういったコンテンツの提供が考えられますか?
小井土 例えば各市町村の要覧などを集めて掲載したいですね。沖縄は移住率が高い傾向があるので、移住を考えているような方々に沖縄の状況を知っていただきたいのですが、そうした情報はあまりまとまっていません。
例えば、弊社は南風原(はえばる)町というところにありますが、沖縄への移住を考えている方が検索するにしても、「はえばる」という読みを知らなければ、検索すらできません。沖縄eBooksに県内すべての市町村の要覧を並べることで、移住を考えている方が知らなかった市町村の姿をPRできるのではないかと考えています。可能であれば過去の要覧も入れて、どのように町が発展したかが分かるようになるといいですよね。
榎本 ここ5年くらいで、県内の主だった市町村が、こぞって市町村史や字(あざ)史を作ったんです。例えば「読谷村史」「那覇市史」「仲田字史」など。一部は電子書籍化されていますが、多くは図書館にしか置かれていないので、電子書籍化して全国から見てもらえる環境を作りたいですね。
このほか、弊社の近くにある沖縄県公文書館に保存されている歴史的文書の抜粋やカタログ類、企業の周年誌なども電子化して集約した形で提供できればと思います。
教育的な価値もあるかもしれません。例えばこれから普及が予想される電子教科書の副読本として、オキナワグラフだったり、元沖縄県知事の大田昌秀さんの本や元女子学徒隊の方々の体験談(「沖縄戦の全女子学徒隊」)などが役に立つのではないかと思っています。第二次大戦を語る上で沖縄戦とはどういう意味を持っていたのかを知りたい、そうした場合の格好の教材というわけです。
小井土 もう1つ、県外の学校からのIターンUターンを考えている若者向けに、新卒採用を考えている中小企業のパンフレットをここから提供したいですね。沖縄電力や銀行、サンエーといった大企業もわずかに存在しますが、沖縄県内にある企業のほとんどは中小企業です。こうした中小企業のパンプレットを、県外の大学の就職課で目にする機会はまずありませんし、そもそもどこの会社が新卒採用しているかすら分からない。新卒採用をしている企業さんのパンフレットを沖縄eBooksに集めれば、有用だと思います。
── 沖縄eBooksのプラットフォームを使っていろいろなことを考えておられるわけですね。
小井土 そうです。あくまで手段の1つが電子書籍、ということなんですよ。企業のパンフレットにせよ、これからは企業の人事の方や社長さんが動画でしゃべっているような方向にいくと思うんですね。わたしどもは印刷会社ですので、印刷物としての体裁での取材もしつつ、同じ取材に行ったときに音も録っちゃう、動画も撮っちゃうことになると思います。紙の本にしても電子書籍にしても、どちらにも対応していくという形ですね。
榎本 沖縄は景色がきれいだとか南国ムードがいっぱいだとか、観光で来られる方に対してはそうしたアピールが主ですが、一方で米軍の基地問題や、さらにいまだに不発弾が毎月見つかっているなど、外に出ない情報もたくさんあります。もっと深い意味で沖縄を理解する方を増やしていきたいと思っています。
小井土 いまは小さなプロジェクトですが、沖縄の財産を残したいという思いに賛同していただける方を増やして、県外に沖縄の魅力をもっと発信していきたいです。何かのきっかけで沖縄eBooksのサイトに来ていただいて、そこで沖縄を知ってもらい、最終的に沖縄に足を運んでもらうことで沖縄が元気になれば、それ以上の喜びはありません。
【山口真弘、eBook USER】